「腰に違和感があるけど、デッドリフトはやめたほうがいい?」

「スクワットの日がちょっと怖い。でもトレーニングは続けたい」

腰に不安を抱えながらバーベルの前に立つと、休むべきか重さを下げて続けるべきかで迷います。背中が丸まった瞬間に腰を痛めるのでは、と心配になる人もいるでしょう。この記事では、腰痛のある人の運動やデッドリフトを調べた研究を順に見ていきます。

先に確認してください。 急に強い痛みが出た、脚のしびれや脚に広がる痛みがある、脚に力が入りにくい、お尻や股のまわりの感覚が鈍い、尿や便が出にくい・漏れる、熱がある、安静にしていても夜も痛みが続く、がんの治療歴や原因の分からない体重減少がある、転倒や事故のあとに痛みが出た。こうした場合はトレーニングを続けるか自分で判断せず、この記事より先に医療機関を受診してください。こうした症状の裏に重い病気があることはまれですが、見逃すと影響が大きいためです。

腰痛ならデッドリフトは避けるべき、と言われるのはなぜ?

デッドリフトもスクワットも、重いバーベルを腰より下から持ち上げたり担いだりします。腰に大きな負担がかかる種目に見えるのは自然なことです。

そこから「腰痛があるなら重い種目は禁止」「背中が丸まると椎間板を傷める」という話がよく聞かれます。一方で、筋トレを続けながら腰痛と付き合っている人も少なくありません。

まず確かめたいのは、腰痛のある人が体を動かすとそもそも痛みはどうなるのかです。

腰痛がある人が運動すると、痛みはどうなる?

研究でよく扱われるのは「慢性非特異的腰痛」です。12週間以上続き、原因となる病気を一つに絞れない腰痛を指します。

この腰痛への運動療法をまとめたコクランレビューには249の試験が含まれています。何もしない、通常のケア、偽の治療と比べると、運動したグループの痛みは0〜100点の尺度で平均15.2点低くなっていました。レビューはこれを臨床的に意味のある差と判断しています。

一方で、日常動作のしにくさの差は平均6.8点でした。レビューが目安にした10点には届いていません。運動の中身もウォーキングから体幹トレーニングまでさまざまで、デッドリフトだけの結果ではありません。

副作用を調べた研究では、有害事象が1件以上報告されたのは運動グループの33%(112群中37群)、比較グループの29%(42群中12群)でした。多くは筋肉痛のような軽いものです。

日本でも、慢性腰痛の201人を対象にした多施設の試験があります。自宅での体幹の筋力トレーニングとストレッチを、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)と比べました。12か月後、日常生活の困りごとの指標は運動グループのほうが大きく改善していました。ただし痛みの強さそのものでは、はっきりした差は出ていません。日本整形外科学会も2019年に腰痛診療ガイドラインを改訂し、運動療法を含む治療の根拠を見直しています。

慢性非特異的腰痛では、運動療法による平均差は痛みで大きく、機能では事前の目安に届かなかった。

運動全般なら、腰痛のある人にも役立つ可能性が示されています。では、デッドリフトのような重い種目そのものを使ったらどうなるのでしょうか。

デッドリフトを取り入れた研究では何が起きた?

スウェーデンで、腰痛を繰り返す70人を2つのグループに分けた試験があります。一方は一人ひとりに合わせた軽い負荷の運動、もう一方はデッドリフトを使った重い負荷の運動です。期間は8週間で計12回。どちらのグループも腰痛についての説明を受けました。

結果は、両グループとも痛みや筋力が介入前より良くなり、痛みの変化にグループ間の差はありませんでした。困っている動作をどれだけできるようになったかでは、軽い負荷のグループが平均4.2点、デッドリフトのグループが2.5点で、軽い負荷のほうが上回りました。

同じ枠組みで24か月まで追った報告でも、痛みや生活への支障にグループ間の差は見られませんでした。どちらのグループでも50〜80%の人が痛みや支障が減ったと答えています。

監督下の比較試験では、高負荷デッドリフトが低負荷運動より優れているとは示されなかった。

デッドリフトのグループが悪くなったわけではありません。ただ、軽い負荷の運動より優れているとも示されませんでした。ほかの重いトレーニングを調べた研究ではどうでしょうか。

ほかの重いトレーニングの研究はどうだった?

アイルランドでは、慢性腰痛の30人が16週間、フリーウエイト中心のトレーニングを週3回行いました。痛み、生活への支障、生活の質がいずれも介入前より良くなっています。ただしこの研究には比べる相手のグループがありません。時間の経過で自然に良くなった分と区別できない点に注意が必要です。

背中やお尻、もも裏など体の後ろ側の筋肉を鍛える運動をまとめた分析もあります。8つの研究、408人を合わせると、一般的な運動やウォーキングと比べて痛み、生活への支障、筋力の改善が大きい傾向がありました。差が見られたのは12〜16週間続けた研究で、有害事象の数に差はありませんでした。

とはいえ研究ごとのばらつきは大きく、対象もデッドリフト単独ではありません。

重いトレーニングにも役立つ可能性はありそうです。ただ、誰にでも同じように向くとは限りません。

デッドリフトが向いている人、まだ早い人はいる?

デッドリフトを8週間行った35人を分析した研究があります。開始時の痛みや生活への支障が軽く、背中とお尻の筋持久力テストの成績が良い人ほど、デッドリフトから得られる効果が大きい傾向がありました。

ここで見落としやすいのは、このトレーニングがパワーリフティング経験のある理学療法士の監督下で行われた点です。痛みを抱えた人が一人で高重量を扱う状況とは条件が違います。人数も少なく、ほかの集団で確かめられたわけではありません。

痛みが強い時期や筋力が落ちている時期は、デッドリフトの恩恵を受けにくいのかもしれません。では、よく言われる「背中を丸めるな」はどうでしょうか。

背中が丸まると腰を痛めるって本当?

物を持ち上げるときの腰の曲がりと腰痛の関係をまとめたレビューがあります。結論は、腰の曲がりの大きさが腰痛の発症や長引くことのリスク要因とは示されなかったというものでした。11研究のうち9研究で、腰痛のある人とない人の腰の曲がり方に差はありませんでした。

ただし研究の質は低く、扱っているのは日常の持ち上げ動作が中心です。高重量のデッドリフトで丸めても安全だと証明したわけではありません。

日本の中京大学のグループは、腰痛のない13人に最大重量の60〜90%でデッドリフトをしてもらいました。重量が上がるほど背中の下のほうから腰の上のほうにかけて曲がりが増え、骨盤も後ろに傾きやすくなりました。著者は椎間板への負担が増えうると考察していますが、腰痛が起きたかどうかは調べていません。

重量によって腰背部の動きが変わることと、その動きが腰痛の原因であることは別の問いである。

イメージ図(実測値ではありません)

2つの研究は矛盾していません。「重くなると背中は丸まりやすい」は観察された事実です。一方で「その丸まりが腰痛の原因になるか」はまだはっきりしていません。

高重量を扱うパワーリフターは腰を痛めやすい?

重量挙げとパワーリフティングのけがを調べた9研究のレビューでは、パワーリフティングのけがは練習1000時間あたり1.0〜4.4件でした。よく痛める部位は背骨、肩、膝です。この頻度は筋力系のほかの非接触スポーツと同じくらいで、接触スポーツより低いとされています。ただし元の研究の質は低めです。

ドイツの競技パワーリフター245人の調査でも、腰は肩や膝と並んでけがの多い部位でした。ベルトを使う人ほど腰のけがが多いという関連も出ていますが、もともと腰に不安がある人がベルトを使っていた可能性もあり、ベルトが原因とは言えません。

スウェーデンの104人の調査では、70%が調査の時点で練習に響く痛みや不調を抱えていました。いちばん多いのは腰からお尻のまわりです。ただし練習を完全に休んでいたのは不調のある人の16%で、多くは練習の中身を変えながら続けていました。

痛みや不調はめずらしくない一方で、多くの人は「やめる」ではなく「調整する」を選んでいます。ここまでの研究はどう読めばよいのでしょうか。

「差がない」は「どっちでもいい」という意味?

デッドリフトと軽い負荷の運動で痛みに差がなかった、という結果は読み違えやすいところです。差がないことは、どちらも効かないという意味ではありません。どちらのグループも介入前より良くなっていました。

ただし、比べる相手のいない研究では、運動のおかげなのか時間とともに自然に良くなったのかを分けられません。人数の少ない試験では、本当はある小さな差を見逃すこともあります。

背中の丸まりについても同じです。「リスク要因とは示されなかった」は「安全と証明された」とは違います。研究が示したことと示していないことを分けて読む必要があります。

この研究から言えないこと

ここで紹介した研究の多くは、慢性または繰り返す腰痛の人が対象です。次のような場合には、同じ結論をそのまま当てはめられません。

  • ぎっくり腰の直後など、急に起きた強い腰痛
  • 坐骨神経痛や椎間板ヘルニアなどで、脚に痛みやしびれがある状態
  • 手術後、骨粗しょう症、脊柱管狭窄症、すべり症、炎症性の病気など、診断のついた病気がある場合

デッドリフトの試験はどれも数十人規模で、専門家の監督下で行われています。パワーリフターの調査はアンケートによる横断的な研究で、何がけがの原因かまでは分かりません。背中の丸まりを測った日本の研究は腰痛のない13人が対象で、腰痛の発生は見ていません。

スクワットについては、腰痛のある人を対象にデッドリフトほど直接調べた研究が見当たりませんでした。安全な重さや回数、頻度、可動域、どこまでの痛みなら続けてよいか。こうした数値の基準も今の研究からは決められません。誰がデッドリフトから得をしやすいかや、長く続けたときの再発への影響もまだ分かっていません。

Logritの結論

ここまでの研究を並べると、次のように言えそうです。

  • 慢性の腰痛では、運動全般に痛みを和らげる効果が平均で見られている(デッドリフト単独の結果ではない)
  • デッドリフトを使った運動でも痛みや生活への支障が減った報告はあるが、軽い負荷の運動より優れているとは示されていない
  • 痛みが軽く、背中やお尻の筋持久力がある人のほうが、デッドリフトの恩恵を受けやすい傾向がある
  • 背中の丸まりが腰痛の原因になるとは確認されていないが、どんな重さでも安全とも言えない
  • 高重量を扱う人でも腰の不調はよくあり、多くは練習をやめずに中身を調整している

腰に不安があるからといって、デッドリフトを必ずやめる必要があるとは言えません。ただし、続ければ腰痛が治るわけでも、いつもの重さで続けて安全と言えるわけでもありません。重さや種目を調整しながら、痛みの様子を見て続けるかどうかを考える選択肢の一つです。

腰に不安があるときの考え方

研究から言えるのは「考え方」までです。具体的な重さや回数は人によって違うため、迷うときは医師や理学療法士に相談してください。

  • 記事の冒頭に挙げた受診の目安に当てはまるなら、まず医療機関へ行く
  • 「全部やめる」か「いつも通り続ける」かの二択にしない
  • 受診の目安に当てはまらない軽い痛みや違和感なら、重さを下げる、可動域を狭める、腰の負担が少なそうな種目に一時的に置き換えるといった調整を考える
  • トレーニング中と翌日の痛みの様子を書き残し、悪くなっていないかを見る
  • 元の重さには一気に戻さず、様子を見ながら少しずつ戻す
  • 痛みが強くなる、長引く、脚に症状が出るときは、自己判断で続けずに専門家へ相談する

痛みを我慢して続けるための方法ではなく、変化を確かめながら調整するための考え方です。排尿や排便の異常、お尻や股のまわりの感覚の鈍さ、急な脚の力の入りにくさ、発熱、転倒や事故のあとの痛みが出たときは、すぐに医療機関を受診してください。

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※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療上の助言ではありません。診断や治療の代わりにはなりません。腰の痛みが続く人や持病のある人は、医師や理学療法士に相談してください。