「健康のために1日1万歩」

よく聞く目標ですが、実際に歩いてみると簡単ではありません。通勤のある日でも届かず、休みの日はもっと少ない、という人も多いはずです。

最近は「8000歩で十分」「7000歩でいい」という話も見かけます。どれが本当なのでしょうか。毎日は無理でも、週に何日か多く歩くのでは意味がないのでしょうか。

この記事では、歩数と健康の関係を調べた研究を順に読み、数字がどこから出てきたのかを確かめます。

ここで紹介する研究の多くは、病院の患者ではなく、地域に住む一般の成人を調べたものです。持病のある人や治療中の人、体力や足腰に不安のある人は、数字をそのまま自分の目標にせず、記事の最後にある注意もあわせて読んでください。

「1日1万歩」はどこから来た?

1万歩という数字には、はっきりした研究の出発点があるわけではありません。2004年に、歩数の目安を整理した論文が出ています。この論文は、1万歩という値の由来を日本のウォーキングの会や、2004年の時点で30年以上前の商売のキャッチフレーズにさかのぼれるとしています。同じ論文は、健康な成人の1日の活動量としては妥当な見積もりだとも書いています。一方で、高齢者や持病のある人には続けにくい場合があるとも指摘しています。

覚えやすく区切りのよい数字なので、広く使われてきました。ただ、健康との関係を確かめて決めた数字ではありません。では、実際に歩数を測って健康との関係を追った研究では、どのあたりに区切りが見えるのでしょうか。

15の研究を合わせると、どこで頭打ちになった?

同じテーマの研究を集めて、結果をまとめて計算し直す分析があります。2022年に出たこの分析は、15の研究に参加した成人47,471人のデータを集めました。参加者は腰などに歩数を測る機器を1週間つけ、その後の経過を追跡されました。追跡した期間の中央の値は7.1年です。参加者の平均年齢は65歳で、7割近くが女性です。参加者の多くは一般の人ですが、血糖値が高めの人を対象にした薬の試験の参加者(7,270人)も含まれています。

参加者を歩数で4つのグループに分け、いちばん少ないグループと比べました。各グループで真ん中にあたる人の歩数と、追跡中に亡くなるリスクの低さは次のとおりです。

  • 3,553歩:比べる基準
  • 5,801歩:40%低い
  • 7,842歩:45%低い
  • 10,901歩:53%低い

歩数が多いグループほど、リスクは低くなっていました。ただ、その差はある歩数で頭打ちになっています。頭打ちとは、それより歩数が多い人と比べても、リスクの差がほとんど広がらなくなったという意味です。その位置は年齢で違いました。

  • 60歳以上:1日6,000〜8,000歩あたり
  • 60歳未満:1日8,000〜10,000歩あたり

男女で分けても傾向は似ていて、どちらも7,000〜9,000歩あたりでリスクがもっとも低くなりました。著者らは、とくに高齢者では1万歩より少ない歩数でも死亡リスクの低さと関連していたとまとめています。

歩数の数直線。2022年の分析で、歩数が多い人ほど亡くなるリスクが低いという関係が頭打ちになった範囲(60歳以上は6,000〜8,000歩、60歳未満は8,000〜10,000歩)、2025年の分析で差が広がりにくくなり始めた範囲(5,000〜7,000歩)、厚生労働省の目安(高齢者約6,000歩、成人約8,000歩)を示した図

研究と国の目安で、歩数の数字が出てくる位置(Logrit編集部作成。範囲はPaluchほか(2022)、Dingほか(2025)、厚生労働省のガイドから)

この分析が見たのは、亡くなったかどうかだけです。心臓の病気や認知症など、ほかの健康まで含めて調べた分析が、2025年に出ています。

2025年、死亡以外の健康まで広げると?

2025年には、歩数と健康の関係を広く調べた分析が出ました。対象にしたのは、歩数を機器で測ってから健康の変化を追った57の研究です。そのうち31の研究を合わせて計算しています。

基準を1日2,000歩にして、7,000歩の人と比べた結果は次のとおりです。

  • 追跡中に亡くなるリスク:47%低い
  • 心臓や血管の病気になるリスク:25%低い
  • 認知症:38%低い
  • 抑うつ症状:22%低い
  • 転倒:28%低い
  • 2型糖尿病:14%低い
  • がんになるリスク:6%低かったが、統計的な差(偶然だけでは説明しにくい差)はなかった。関係がないと確かめられたわけでもない

1日2,000歩の人と比べた7,000歩の人のリスクの低さの棒グラフ。亡くなるリスク47%、認知症38%、転倒28%、心臓や血管の病気25%、抑うつ症状22%、2型糖尿病14%、がん6%(統計的な差なし)

1日2,000歩と比べた7,000歩の人のリスクの低さ(Logrit編集部作成。数値はDingほか(2025)の論文の要旨から引用)

歩数とリスクの関係の形は、項目によって違いました。亡くなるリスク、心臓や血管の病気、認知症、転倒は、5,000〜7,000歩あたりから先では、歩数が多くてもリスクの差が広がりにくくなります。一方で、がんで亡くなるリスク、2型糖尿病、抑うつ症状などは、歩数が多い人ほどリスクが低いという関係が、ほぼまっすぐ続いていました。

著者らは、1万歩は活動的な人には今でも目標になりうるとしています。そのうえで、7,000歩でも健康にとって意味のある差と関連していて、人によってはより現実的な目標かもしれないと書いています。ただし、結果の確からしさは多くの項目で「中程度」と評価されています。がんになるリスクは「低い」、転倒は「とても低い」でした。認知症とがんは2つ、抑うつ症状は3つ、2型糖尿病と転倒は4つの研究しかまとめられていません。

ここまでは、1週間の平均の歩数で見た研究です。次は、平均ではなく、多く歩いた日が週に何日あったかに注目した研究です。

毎日でなく、週に数日だけ多く歩いたら?

京都大学と米国の大学の研究者による研究があります。米国の20歳以上3,101人が、腰に機器を1週間つけて歩数を測りました。その後の10年間に亡くなったかどうかを調べています。

参加者は、1週間のうち8,000歩以上歩いた日の数で3つに分けられました。年齢や持病、1日の平均歩数などの違いをそろえる前の、10年間に亡くなった人の割合は次のとおりです。

  • 0日の人:40.7%
  • 1〜2日の人:14.1%
  • 3〜7日の人:5.5%

違いをそろえて計算すると、0日の人との差は次のようになりました。

  • 1〜2日の人:14.9ポイント低い
  • 3〜7日の人:16.5ポイント低い

ここでの「ポイント」は、割合どうしをそのまま引き算した差です。「リスクが14.9%低い」という意味ではありません。

8,000歩以上の日が週0日の人と比べ、1〜2日の人は10年間に亡くなった割合が14.9ポイント、3〜7日の人は16.5ポイント低かったことを示す図。0日の人は平均年齢が高く、病気の経験も多いことを示す表つき

8,000歩以上の日が週に何日あったか(Logrit編集部作成。数値はInoueほか(2023)の論文から引用)

週1〜2日でも差が見られ、その差は週3日あたりで頭打ちになりました。8,000歩のかわりに6,000〜10,000歩のどこで区切っても、似た結果でした。著者らは、毎日は難しい人でも、週に数日しっかり歩くことに意味があるかもしれないとしています。

この論文は、出たあとに図1の訂正が出ています。グラフの見出しと縦軸の名前が、2つの図で入れ替わっていたという訂正です。数値の結果は変わっていません。

海外の研究で、7,000〜8,000歩あたりの数字が何度か出てきました。日本の目安はどうなっているのでしょうか。

日本の目安は何歩?

厚生労働省は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を出しています。成人には、歩くのと同じくらい以上の強さで体を動かす時間を、1日60分以上とるよう勧めています。これが1日約8,000歩以上に相当します。高齢者は1日40分以上で、約6,000歩以上です。体の機能が落ちている高齢者は、安全に気をつけ、転倒などに注意するよう書かれています。

8,000歩の内訳も書かれています。60分歩くと約6,000歩で、家事などの軽い動きが1日約2,000歩にあたります。合わせて約8,000歩という計算です。

ガイドは、強さや量は個人差をふまえて調整し、できることから取り組むよう書いています。今よりも少しでも多く体を動かすことが基本です。「20分以上続けないと効果がない」といった最低限の時間や回数の決まりはなく、推奨はあくまで目安だとしています。

なお、2019年の国の調査では、20歳以上が1日に歩いた歩数の平均は6,278歩でした。

意外な点:1万歩は「最低ライン」ではなかった

1万歩は、届かなければ意味がない最低ラインのように扱われることがあります。ところが研究を並べると、1万歩は区切りが見えた範囲のうち、多い側に出てきます。60歳未満で頭打ちになったのは8,000〜10,000歩で、1万歩はその多い側の端です。60歳以上では、それより少ない歩数で頭打ちになっていました。

反対に読み違えやすいのが、「頭打ち」の意味です。頭打ちは、それより多く歩く人との差が小さくなったという意味で、それ以上歩いても意味がない、という意味ではありません。2025年の分析でも、がんで亡くなるリスクや2型糖尿病などは、歩数が多い人ほど低いという関係が続いていました。1万歩を歩けている人が、減らす理由にはなりません。

「8,000歩・20分の速歩き」という数字を見かけることもあります。この組み合わせは、群馬県中之条町で高齢者を調べた研究で報告されたものです。1年間の平均歩数と、同じ時期の健康状態の関係を見た研究で、歩数や速歩きの時間が多い人ほど体の健康状態がよい関連が報告されました。歩けば病気を防げると確かめた研究ではありません。

この研究から言えないこと

ここで紹介した研究には、次のような限界があります。

  • どれも、歩数と健康の「関連」を見た研究。歩数を増やしたから健康になった、という因果関係は確かめられていない
  • もともと体調がよい人ほど多く歩けるという、逆向きの関係を消しきれない。8,000歩以上の日が0日だった人は、平均年齢が63.7歳と高く、心臓や血管の病気の経験がある人も約3割いた(3〜7日の人では平均46.0歳、約5%)。0日の人の約半数は、400mほど歩くことや階段10段を上るのが難しいと答えていた。著者らが別の方法で計算し直すと、差は7.2ポイント(1〜2日)と10.6ポイント(3〜7日)に小さくなった
  • 歩数を測ったのは多くが最初の1週間だけで、その後の歩数の変化は分からない
  • 歩数は機器やつける場所で2割以上違うことがある。研究の多くは腰につける機器で、手首につける機器とは数字が違うことがある
  • 2022年の分析に入った研究はすべて高所得国のもので、参加者は白人が中心。日本人にそのまま当てはまるとは限らない
  • 歩く速さが健康にどう関係するかは、2022年の分析ではまだはっきりしなかった
  • 2025年の分析は、年齢で分けて計算していない。7,000歩という数字が、高齢者と若い人で同じかどうかは分からない
  • 反対に、2022年の分析では、歩数が多い人ほど亡くなるリスクが高いという結果は見られなかった

Logritの結論

ここまでの研究を並べると、次のように言えそうです。

  • 1万歩は、健康との関係を確かめて決まった数字ではない
  • 2022年の分析では、歩数が多い人ほど亡くなるリスクが低いという関係が、60歳以上では6,000〜8,000歩、60歳未満では8,000〜10,000歩あたりで頭打ちになった
  • 2025年の分析では、2,000歩の人と比べて7,000歩の人は、亡くなるリスクや認知症、転倒などのリスクが低かった。一部の項目は、歩数が多い人ほど低いという関係が続いていた
  • 8,000歩以上の日が週1〜2日ある人でも、0日の人より10年間に亡くなった割合が低かった
  • 厚生労働省の目安は、成人で1日約8,000歩以上、高齢者で約6,000歩以上

1万歩に届かなくても、7,000〜8,000歩あたりの人は、もっと少ない人より、亡くなるリスクや一部の病気のリスクが低い傾向がありました。ただし関連であって、歩いた分だけ健康になると確かめた結果ではありません。1万歩を歩ける人が減らす必要はなく、届かない人は「今より少し多く」から始める、という考え方が研究とガイドに合っています。

今日から試せること

最初に確かめてほしい条件があります。次にあてはまる人は、歩く量を増やす前に医師に相談してください。

  • 持病のある人、病気の治療中の人
  • 高齢で、体力や足腰に不安がある人、最近転んだことがある人
  • 膝や腰に痛みがある人
  • 歩くと胸の痛みや息苦しさ、めまいが出る人

そのうえで、次の順で考えてみてください。

  1. いまの歩数を、ふだんどおりの生活で1週間測る。平日と休日の違いも見ておく
  2. 目標を1万歩に固定しない。今の平均より少し多い数を目標にする。60分の歩行が約6,000歩なので、10分歩くとおよそ1,000歩増える計算になる
  3. 次の目安として、成人は1日約8,000歩、高齢者は約6,000歩を置く(厚生労働省のガイド)
  4. 毎日届かない週は、8,000歩以上の日を週に2〜3日つくることを考える。1〜2日でも、0日の人との差が見られた研究がある
  5. 1万歩以上歩けている人は、減らす必要はない。足や膝に痛みが出ていないかは確かめる
  6. 歩数とは別に、筋トレも週2〜3日。同じガイドがあわせて勧めている

参考文献

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※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療上の助言ではありません。診断や治療の代わりにはなりません。持病のある人や治療中の人、歩いているときに胸の痛み・息苦しさ・めまいなどが出る人は、医師に相談してください。