筋トレをすると気分が晴れる。ストレス発散になる。Xでも、こうした投稿をよく見かけます。仕事で疲れた日ほどジムに行きたくなる、という人もいるかもしれません。
では、筋トレを続けると、気分の落ち込みや不安は実際に変わるのでしょうか。変わるとしたら、どのくらいの差なのか。重さや回数をどう組めばいいのか。
この記事では、筋トレと心の状態を調べた3つの分析を、気分の落ち込み、不安、うつ病の人での運動の比べ方の順に紹介します。
ここで紹介するのは、くじ引きでグループを分けた試験をまとめた分析です。うつ病や不安の症状で治療を受けている人は、記事の後半「今日から試せること」にある注意もあわせて読んでください。
筋トレで気分が変わると言われるのはなぜ?
体を動かすと脳内の物質が出て気分がよくなる。重さが挙がるようになると自信がつく。筋トレと気分の話では、こうした説明がよく聞かれます。
ただ、こうした仕組みが本当に気分の変化につながっているのかは、まだはっきりしていません。この記事で読む研究も、仕組みではなく、筋トレをした人としなかった人で、気分の落ち込みや不安の点数がどう変わったかを比べたものです。
筋トレをすると、気分の落ち込みは?
2018年に、アイルランドのリムリック大学の研究者らが、筋トレと気分の落ち込みを調べた試験をまとめた分析を報告しました。対象は33の試験、合わせて1,877人です。参加者をくじ引きで、筋トレをするグループと運動をしないグループに分けた試験だけを集めています。
気分の落ち込みは、決められた質問票の点数で測られていました。筋トレをしたグループでは、しなかったグループより点数が下がっていました。効果の大きさを表す数字は0.66で、著者らはこれを中くらいの大きさとしています。
ただ、試験ごとの結果のばらつきは大きいものでした。また、どちらのグループに入ったかを測る人に伏せるなど、手順をより厳しくした試験では、点数の下がり方が小さくなっていました。

筋トレと気分の落ち込み・不安を調べた試験をまとめた2つの分析(Logrit編集部作成。数値は各論文の要旨から引用)
不安についてはどうか
同じ研究グループは、2017年に、筋トレと不安を調べた試験をまとめた分析も報告しています。16の論文、922人が対象です。平均年齢は43歳で、7割近くが女性でした。
不安の点数も、筋トレをしたグループのほうが、しなかったグループより下がっていました。効果の大きさを表す数字は0.31で、気分の落ち込みの分析より小さめです。
健康な人とそうでない人で分けると、違いが見えました。健康な人では0.50、体や心の病気がある人では0.19です。一方で、性別や年齢、1回の時間、週の回数、強さによる違いは、統計的にははっきりしませんでした。
ここまでの2つは、さまざまな人を対象にした分析でした。では、うつ病と診断される基準にあてはまる人ではどうなのか。筋トレは、ほかの運動と比べてどうなのでしょうか。
うつ病の人で、運動の種類を比べると
2024年に、オーストラリアのクイーンズランド大学などの研究者らが、うつ病の人を対象にした運動の試験をまとめた大きな分析を報告しました。218の研究、合わせて14,170人です。くじ引きでグループを分けた試験のうち、うつ病の基準にあてはまる人を対象にしたものを集めています。
通常の診療や偽薬などを受けたグループと比べると、要旨で挙げられている次の運動で、気分の落ち込みが軽くなっていました。数字は効果の大きさです。
- ウォーキングやジョギング:0.62
- ヨガ:0.55
- 筋トレ:0.49(22の試験・643人)
- いろいろな有酸素運動の組み合わせ:0.43
- 太極拳や気功:0.42
また、決められた運動が強めなほど、効果が大きい傾向がありました。筋トレとヨガは、途中でやめる人が比較的少なく、続けやすい運動だったとされています。

うつ病の人を対象に運動の種類を比べた分析(Logrit編集部作成。数値は論文の要旨から引用)
この分析の確かさについては、注意が必要です。手順のゆがみが少ないと判定された研究は1つだけでした。結果の確かさは、ウォーキングやジョギングで低い、ほかの運動ではとても低い、と評価されています。
なお、この論文は2024年5月に訂正が出ています。効果の大きさを計算するときの方法を説明した一文を削るという訂正で、出版社のページでは、結果に大きな変化はないとされています。
意外な点・読み違えやすい点
ひとつ目は、筋力が伸びたかどうかとの関係です。2018年と2017年の分析では、筋トレで筋力がはっきり伸びたかどうかによって、気分の落ち込みや不安の下がり方に違いは見られませんでした。2018年の分析では、決められた筋トレの量の多さも関係していませんでした。
ふたつ目は、手順を厳しくした試験ほど差が小さくなったことです。参加した本人は、自分が筋トレのグループにいるとわかっています。よくなるはずだという期待が点数に影響した可能性は、どの研究でも残ります。
みっつ目は、運動ごとの数字の並びをどう読むかです。2024年の分析では、筋トレの数字はウォーキングやジョギング、ヨガより少し小さめでした。ただ、どの数字にも幅があり、確かさも低いと評価されています。この順番どおりに、どの運動がどれだけ上だと言い切れるものではありません。

2つの分析で、筋トレの効果の違いと関係が見られなかったもの・見られたもの(Logrit編集部作成。数値は各論文の要旨から引用)
ここで紹介した研究から言えないこと
ここで紹介した研究から、次のことはまだ言えません。
- 筋トレだけで、うつ病や不安の症状が治ること。2024年の分析の著者らは、運動を、心理療法や薬と並ぶ治療の選択肢として考えてよいとしていますが、治療をやめて筋トレに置き換えてよいという話ではありません
- 1回の筋トレのあとに、その場で気分がどれだけ変わるか。ここで紹介したのは、何週間か続けた試験をまとめたものです
- どんな重さ・回数・種目の組み方が一番よいか。2018年と2017年の分析では、量や強さによる違いははっきりしませんでした
- 筋トレで気分が変わる仕組み。この記事で読んだ研究は、点数の変化を比べたもので、仕組みを調べたものではありません
- 日本で筋トレを続けている人に、そのまま当てはまるか。試験の対象者の年齢や健康状態は、試験ごとにさまざまです
気分の落ち込みや不安が続く、眠れない、仕事や家事が手につかないときは、筋トレで様子を見る前に医療機関や相談窓口に相談してください。死にたい気持ちがあるときは、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や、厚生労働省の「まもろうよ こころ」のページにある相談先へすぐに連絡してください。
まとめ
筋トレを続けたグループでは、しなかったグループより、気分の落ち込みや不安の点数が下がっていました。ただし、研究の確かさには限りがあり、治療の代わりになるとは言えません。
33の試験をまとめた分析では、気分の落ち込みの点数が中くらいの大きさで下がっていました。16の論文をまとめた分析では、不安の点数の下がり方は小さめで、健康な人のほうが大きく出ていました。うつ病の人を対象にした218の研究の分析では、筋トレもウォーキングやヨガと並んで落ち込みを軽くしていましたが、結果の確かさは低いと評価されています。筋力の伸びや筋トレの量と、気分の変化の大きさには、はっきりした関係が見られませんでした。
Logritの結論
気分の落ち込みや不安とつき合う選択肢のひとつとして、筋トレを調べた研究は積み重なってきています。ただ、重さや筋力の伸びを追うことと、気分がよくなることは、研究の上ではまだ結びつけられていません。重さや回数の数字にこだわりすぎず、続けられる形を探す。今の研究からは、そう考えるのが自然です。
今日から試せること
- 重さや回数の目標より、続けられる頻度と内容を優先する。筋トレの量や筋力の伸びと、気分の変化の大きさには、はっきりした関係が見られなかった
- 筋トレが合わなければ、ウォーキングやヨガに替える。2024年の分析では、これらも落ち込みを軽くする方向の結果だった
- 筋トレをした日としなかった日の気分と眠りを、トレーニングの記録に一言書く
参考文献
- Gordon BR, McDowell CP, Hallgren M, Meyer JD, Lyons M, Herring MP. Association of Efficacy of Resistance Exercise Training With Depressive Symptoms: Meta-analysis and Meta-regression Analysis of Randomized Clinical Trials. JAMA Psychiatry. 2018;75(6):566-576. PMID: 29800984 / DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2018.0572
- Gordon BR, McDowell CP, Lyons M, Herring MP. The Effects of Resistance Exercise Training on Anxiety: A Meta-Analysis and Meta-Regression Analysis of Randomized Controlled Trials. Sports Med. 2017;47(12):2521-2532. PMID: 28819746 / DOI: 10.1007/s40279-017-0769-0
- Noetel M, Sanders T, Gallardo-Gómez D, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847(訂正:BMJ. 2024;385:q1024). PMID: 38355154 / DOI: 10.1136/bmj-2023-075847
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療上の助言ではありません。診断や治療の代わりにはなりません。気分の落ち込みや不安が続く人、治療を受けている人は、医療機関に相談してください。



